平田恵子の ABC南風
    
Vol. 9 Ikan (イカン=魚)
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 早朝。視界をさえぎるもののなにもない白砂のクタ・ビーチを、何も考えずに裸足で歩いていく。沖の波は、戦いを挑むサーファーをかんたんに振り切り落としているほど大きくて勇壮なのに、渚までやってきた小波は、うやうやとひれ伏して、私の足の甲をやさしく舐めかえしている。くすぐったいような、気持ちいいような。永遠にそうしていてほしいような…。きめの詰まったなめらかな砂地から足の裏を通して伝わってくる、固めでひんやりサラサラの感触も、クタ・ビーチならではの心地よさだ。繰りかえす波音を耳に、渚をじゃれ合いながら、自由に全速で駆け回るバリの犬たちを見ていると、しあわせな気持ちが満ちてくる。

 しばらく歩いた先で、三角帽をかぶったおじいさんが、投げ網を引き上げていた。たくさんの藻に混じり、長さ10センチくらいの細長いikan(イカン=魚)が、ちょろちょろ引っかかっている。こぶし大のkepiting(クピティン=カニ)が3匹、小さいudang(ウダン=えび)が1匹ほど網にひっかかって、もがいていた。

 行きがかり上、藻をはずす手伝いをするはめになった私は、”Mau diapakan ikan-ikan kecil ini?(こんな雑魚をどうするのかな?)”と尋ねてみた。揚げものにして、家族8人で食べるのだとか。どう考えても”Wah, tidak cukup, ya.(こりゃ、イカンな)”という水揚げではある。 

 帰り道は、珊瑚のかけらや貝殻を拾い集めながら、ますますゆっくりした歩調となる。ふと、海に首を向けると昇りきった太陽光線を受けた大海原で、何かかなり大きな魚が飛び跳ねた。ここまで海岸に近づくことはないだろうが、もし、いるかならうれしいな。いるかはほ乳類類なのだけど、インドネシア語では、ikan lumba-lumba (イカン・ルンバ・ルンバ=競争する魚)ということになっている。

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